が何かのしるしのやうに
おまへはそれを胸に抱いた

その日はすぎた あの道はこの道と
この道はあの道と 告げる人も もう
おまへではなくなつた!

私の今の悲しみのやうに 叢【くさむら】には
一むらの花もつけない草の葉が
さびしく 曇つて そよいでゐる




 ひとり林に……


 I ひとり林に‥‥


だれも 見てゐないのに
咲いてゐる 花と花
だれも きいてゐないのに
啼いてゐる 鳥と鳥

通りおくれた雲が 梢の
空たかく ながされて行く
青い青いあそこには 風が
さやさや すぎるのだらう

草の葉には 草の葉のかげ
うごかないそれの ふかみには
てんたうむしが ねむつてゐる

うたふやうな沈黙【しじま】に ひたり
私の胸は 溢れる泉! かたく
脈打つひびきが時を すすめる




 II 真冬のかたみに‥‥

      Heinrich Vogeler gewidmet


追ひもせずに 追はれもせずに 枯木のかげに
立つて 見つめてゐる まつ白い雲の
おもてに ながされた 私の影を――
(かなしく 青い形は 見えて来る)

私はきいてゐる さう! たしかに
私は きいてゐ
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