優しき歌 I・II
立原道造


[表記について]
本文中、底本のルビは「【ルビ】」の形式で処理した[#青空文庫でルビを表す《》は本文中に使われているので【】に変更]。また、ローマ数字はアルファベットの半角大文字で記入した。


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優しき歌 I


 燕の歌

   春来にけらし春よ春
     まだ白雪の積もれども
             ――草枕


灰色に ひとりぼつちに 僕の夢にかかつてゐる
とほい村よ
あの頃 ぎぼうしゆとすげが暮れやすい花を咲き
山羊【やぎ】が啼いて 一日一日 過ぎてゐた

やさしい朝でいつぱいであつた――
お聞き 春の空の山なみに
お前の知らない雲が焼けてゐる 明るく そして消えながら
とほい村よ

僕はちつともかはらずに待つてゐる
あの頃も 今日も あの向うに
かうして僕とおなじやうに人はきつと待つてゐると

やがてお前の知らない夏の日がまた帰つて
僕は訪ねて行くだらう お前の夢へ 僕の軒へ
あのさびしい海を望みと夢は青くはてなかつたと




 うたふやうにゆつくりと‥‥


日なたに いつものやうに しづかな影が
こまかい模様を編んでゐた 淡
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