づかつた
昔の こはれた笛のやう!
僕はあわてて逃げて行つた
あれはたしかにわるかつた
あかりは消えた どこへやら?
IV 薄 明
音楽がよくきこえる
だれも聞いてゐないのに
ちひさきフーガが 花のあひだを
草の葉をあひだを 染めてながれる
窓をひらいて 窓にもたれればいい
土の上に影があるのを 眺めればいい
ああ 何もかも美しい! 私の身体の
外に 私を囲んで暖く香【かをり】よくにほふひと
私は ささやく おまへにまた一度
――はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ
うつろふものよ 美しさとともに滅びゆけ!
やまない音楽のなかなのに
小鳥も果実【このみ】も高い空で眠りに就き
影は長く 消えてしまふ――そして 別れる
V 民 謡
――エリザのために
絃【いと】は張られてゐるが もう
誰もがそれから調べを引き出さない
指を触れると 老いたかなしみが
しづかに帰つて来た……小さな歌の器【うつは】
或る日 甘い歌がやどつたその思ひ出に
人はときをりこれを手にとりあげる
弓が誘ふかろい響――それは奏でた
(おお ながいとほいながれるとき)
前へ
次へ
全13ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
立原 道造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング