りうど】も盗人もゐなかつた
ひろい風と光の万物の世界であつた。
II 虹の輪
あたたかい香【かを】りがみちて 空から
花を播き散らす少女の天使の掌【てのひら】が
雲のやうにやはらかに 覗いてゐた
おまへは僕に凭【もた】れかかりうつとりとそれを眺めてゐた
夜が来ても 小鳥がうたひ 朝が来れば
叢【くさむら】に露の雫が光つて見えた――真珠や
滑らかな小石や刃金【はがね】の叢に ふたりは
やさしい樹木のやうに腕をからませ をののいてゐた
吹きすぎる風の ほほゑみに 撫でて行く
朝のしめつたその風の……さうして
一日【ひとひ】が明けて行つた 暮れて行つた
おまへの瞳は僕の瞳をうつし そのなかに
もつと遠くの深い空や昼でも見える星のちらつきが
こころよく こよない調べを奏でくりかへしてゐた
III 窓下楽
昨夜は 夜更けて
歩いて 町をさまよつたが
ひとつの窓はとぢられて
あかりは僕からとほかつた
いいや! あかりは僕のそばにゐた
ひとつの窓はとぢられて
かすかな寝息が眠つてゐた
とほい やさしい唄のやう!
こつそりまねてその唄を僕はうたつた
それはたいへんま
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