ていたが、鈴田に向って、
「今日の式には、勅語《ちょくご》の捧読《ほうどく》があるんじゃありませんか。」
「ええ、それはむろんありますとも。……」
「じゃあ、靴はぬぐわけにはいかないな。ほかの場合はとにかくとして、勅語捧読の場合に軍人が服装規程にそむくわけにはいかん。」
「そのままおあがりになったら、いかがです。かまうもんですか。」
「かまうも、かまわんも、それよりほかにしかたがない。」
平木中佐は、片足ぬいでいた長靴《ちょうか》を、もう一度はいた。
鈴田は、その時、じろりと次郎の顔を見たが、その眼はうす笑いしていた。
その間、荒田老は、黒眼鏡をかけた顔を奥《おく》のほうに向け、黙々《もくもく》として突っ立っていた。事務室にいた塾生たちは、入り口の近くに重なりあうようにして、その光景に眼を見はっていた。
やがて中佐は、荒田老と鈴田のあとについて、ふきあげた板張りの廊下《ろうか》に長靴の拍車《はくしゃ》の音をひびかせながら、塾長室のほうに歩きだした。
次郎は、ちょっとの間、唇をかんでそのうしろ姿を見おくっていたが、急にあわてたように、三人の横を走りぬけ、塾長室のドアをあけてやっ
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