次郎物語
第五部
下村湖人
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)友愛塾《ゆうあいじゅく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)本田|次郎《じろう》は、
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#ローマ数字1、1−13−21]
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一 友愛塾《ゆうあいじゅく》・空林庵《くうりんあん》
ちゅんと雀《すずめ》が鳴いた。一声鳴いたきりあとはまたしんかんとなる。
これは毎朝のことである。
本田|次郎《じろう》は、この一週間ばかり、寒さにくちばしをしめつけられたような、そのひそやかな、いじらしい雀の一声がきこえて来ると、読書をやめ、そっと小窓のカーテンをあけて、硝子戸《ガラスど》ごしに、そとをのぞいて見る習慣になっている。今朝はとくべつ早起きをして、もう一時間あまりも「歎異抄《たんにしょう》」の一句一句を念入りに味わっていたが、そとをのぞいて、いつもと同じ楓《かえで》の小枝《こえだ》の、それも二寸とはちがわない位置に、じっと羽根をふく
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