を、にこにこしながら見まわしたあと、すぐ室を出た。
その日はそれっきりで、べつに何の行事もなかった。塾生たちは、朝倉夫人や次郎をはじめ、給仕の河瀬や、炊事夫《すいじふ》の並木夫婦《なみきふうふ》に何かと世話をやいてもらって、入浴をしたり、広間に集まって食事をしたり、各室で大火鉢《おおひばち》をかこみながら、各地のおみやげを出しあって茶をのんだりするだけのことだった。就寝《しゅうしん》の時刻についても、十時半になったらきちんと電燈《でんとう》を消すことになっているから、そのつもりで、という注意が与《あた》えられただけだった。何だか塾堂に来ているというより、修学旅行で宿屋に泊まっているという感じのほうが強かった。そして、そうした意味での親愛感なら、各室ごとには、もうたいていできあがってしまっていたのである。
それでも、いざ就寝という時になって、どの室にもちょっとした混雑《こんざつ》が生じた。というのは、十|畳《じょう》の部屋に大火鉢一つと六人分の机とをすえ、そこに六人分の夜具を都合よくのべるのには、かなりの工夫と協力を必要としたからである。
混雑は申し合わせたように十時ごろからはじま
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