設計について具体的に話しあいたいと思うが、それには、まず第一におたがいに漂流して来たこの島がどういうところであるか、つまり、おたがいは今どういう環境《かんきょう》におかれているのか、それをみんながはっきり知っておく必要がある。客観的な現実、それを知らないでは、理想も信念もどうにもなるものではないのだから。……で、私は懇談に先だって、まず諸君にこの建物の内外をくまなく探検しておいてもらいたいと思っている。あらましのことはもうわかっているかもしれない。しかし、これからの生活にどこをどう利用し、何をどう使ったらいいか、そういう点まで注意してこまかに見てまわった人は、おそらくまだないだろうと思う。遠慮《えんりょ》はいらない。森や畑はむろんのこと、物置でも、戸棚《とだな》でも、押し入れでも、本箱《ほんばこ》でも、どしどし探検してもらいたい。もっとも、本館の一部に炊事夫《すいじふ》の家族と給仕の私室があり、なお向こうに空林庵《くうりんあん》という別棟《べつむね》の小さな建物があって、そこはここにいる三人の私室になっているので、それだけは除外してもらうことにする。こんな除外例を設けると、絶海の孤島と
前へ 次へ
全436ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング