体として総合し、統一して行く、そういう過程が何よりもたいせつなのである。過程をいいかげんにして、結果だけをととのえてみたところで、諸君は人間として少しも伸びたとはいえない。たとえ結果はどうであれ、その過程さえまじめにふんで行くならば、それで諸君はたしかに伸びたといえるし、ここの生活は、諸君の将来の生活に対して一つの大きな役割を果たすことになるだろう。とかく世間は、形にあらわれた結果だけを見て、いろいろと批評したがるものだが、諸君は世間のそんな批評などに頓着《とんちゃく》する必要はない。諸君はあくまでも純真に、諸君自身の良心の声にきいて、おたがいを伸ばしあうためにはどうすればいいか、それだけに専念すればいいのだ。――」
 朝倉先生の言葉の調子《ちょうし》には、これまでになく力がこもっていた。次郎は、思わずまた荒田老の顔をのぞいた。荒田老は、しかし、その時には、もういつもの動かない木像の姿にかえっていた。その代わりに、鈴田がいかにも自分の気持ちをおさえかねたかのように、唇《くちびる》をかみ、眼をいからしていた。
「そこで――」
 と、朝倉先生は、調子をやわらげて、
「これからおたがいの生活
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