。しかし、たよるべき何ものもない絶海の孤島におたがいが漂流して来たと思えば、それよりほかに道はないわけである。とにかく努力して見ることである。あるいは、中には、――これはまさかとは思うが――組織などなければないでいい、強制がなくてそのほうがかえって気楽だ、と考えているものがあるかもしれない。もし、万一にも、諸君のすべてがそう思っているなら、――いいかえると、それが諸君の精一ぱいの知恵を出しあっての結論なら、私はあながちそれに反対しようとは思わない。何事も経験だから、それではたしておたがいの生活が愉快になるものかどうか、ためして見るのもいいだろう。しかし、常識ある諸君が、まさかそんな乱暴な実験をやるだろうとは、私には信じられない。――
「考えて見ると、おたがいが、今言ったように知恵をしぼりあって、おたがいの共同社会を建設して行くという生活は、ただ従順《じゅうじゅん》に伝統や規則や指揮命令に従って形をととのえていくというような簡単な生活ではない。それだけにむずかしくもあれば、またその途中《とちゅう》で、いろいろのつまずきも経験しなければならないだろう。あるいは、最後までつまずきの連続で終わ
前へ 次へ
全436ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング