、みんなを見まもっていた。
座がおちつくのを待って、朝倉先生がおもむろに話し出した。
「けさ式場で、ここの共同生活の根本になることだけはだいたい話しておいたが、これまで諸君がうけて来た団体訓練とはかなりゆきかたがちがっているのではないかと思うし、自然|腑《ふ》におちなかった点も多かろうと思うので、懇談にはいるまえに、念のため、もう少しくだいて私の気持ちを話しておきたいと思う。」
次郎は荒田老の顔の動きに注意を怠《おこた》らなかった。黒眼鏡がかすかに動いて、朝倉先生の声のするほうに向きをかえたように思われた。
「私はまず諸君にこの場所を絶海《ぜっかい》の孤島《ことう》だと思ってもらいたい。偶然《ぐうぜん》にも諸君は時を同じゅうしてこの孤島に漂流《ひょうりゅう》して来た。私もむろん諸君と同様、漂流者の一人である。これまではおたがいに名も顔も知らなかったものばかりであるが、運命は、この孤島の中で、おたがいをいっしょにした。まずそう心得てもらいたい。――
「さて、そう心得ると、おたがいに知らん顔はできないはずである。それどころか、一人ぽっちでなくて、まあよかった、と胸をなでおろし、さっそく
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