まにして、いきなり両手で顔をおさえ、逃《に》げるように室を出て行ってしまった。
 その日は、次郎にとって、友愛塾はじまって以来の暗い、うつろな日だった。恋《こい》のみか、生命をかけた仕事までが根こそぎになったという意識が、かれの心から考える力をも感ずる力をも完全に奪《うば》ってしまったかのようであった。かれはもう朝倉夫人に慰《なぐさ》めを求めたいという気持ちさえ失ってしまっていた。そのくせ、一ところにじっとしてはいなかった。つぎからつぎに、こざこざした仕事を求めて塾内をあるきまわった。そして、ながい間の習慣に従って、まちがいなく、それらを果たしていった。ちょうど正確な機械ででもあるかのように。
 夕方、べつにする仕事も見つからなくて、寒い塾庭を一人でぶらついていると、大河無門がうしろからかれの肩《かた》をたたいて言った。
「本田さん、ぼくもききましたよ。」
 次郎が虚脱《きょだつ》した眼でかれの顔を見つめていると、
「塾は今度きりで閉鎖《へいさ》になるんですってね。」
「ええ、どうしてわかったんです。」
「小母《おば》さんにききました。」
 次郎は塾が閉鎖になることは、塾生たちにはまだ
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