の簡単な日常生活の方式、つまり「いただきます」と「ごちそうさま」のあいさつだけですまし、その他は「無作法にも窮屈《きゅうくつ》にもならないように」各自に心を用いてもらうことになった。食事がすみ、食器が片づくと、それに代わって茶菓が運ばれた。友愛塾では、開塾中に先輩《せんぱい》から陣中見舞《じんちゅうみまい》と称して、しばしば各地の名産が送られて来たが、この時も、ちょうど青森のりんごが三|箱《はこ》ほど届いていたので、それもむろん食卓をかざった。その色彩《しきさい》の豊かさは、興国塾の塾生たちの眼を見張らせるのに十分であった。
準備がととのうと、進行係の次郎が言った。
「ではこれからお約束の懇親会《こんしんかい》にはいりたいと思いますが、そのまえに、もし、昼間の意見交換会で論じ足りなかった問題とか、あるいは、全員が顔をそろえたところで論議してみたい問題とかいうようなものがありましたら、ご発表を願います。これは実は興国塾の塾長先生からのご希望もありましたので、茶菓のほうはしばらくお預けにして、まずそのほうから片づけたいと思います。」
次郎は皮肉を言うつもりではなかったが、言ってしまって
前へ
次へ
全436ページ中390ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング