《しき》をしていた青年が、そのまま先方の代表として進み出た。かれはまず大河をはじめこちらの塾生たちに厳粛《げんしゅく》な挙手《きょしゅ》注目《ちゅうもく》の礼をおくったあと、精一ぱいの声をはりあげて、
「不肖《ふしょう》黒田勇は興国塾生一同を代表して、友愛塾の諸兄に初対面のごあいさつを申し述べる光栄を有します。」
と叫んだ。それから、およそ五六分間は、十分に暗誦《あんしょう》して来たらしい文句をつらねて、熱烈《ねつれつ》に世界の大勢を説き、日本の生命線を論じた。そして論旨《ろんし》を一転して青年の思想問題に入りかけたが、そのころからかれの言葉は次第《しだい》にみだれがちになり、またしばしばゆきづまった。ゆきづまると、かれの視線はきまって空のほうにはねあがり、血走った白眼が大きく日に光った。そんなふうで、さらに五六分の時間がどうなりすぎたが、そのうちに、いくら空をにらんでも、どうしてもあとの言葉がつづかなくなってしまった。するとかれは、ちょっと肩《かた》をすくめ、右手をあげて耳のうしろをかいた。それからにやりと笑って胸のかくしから草稿《そうこう》を引きだし、大いそぎでそれをめくった。
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