……まあ昔《むかし》でいえば、道場やぶりというところだろうね。」
 次郎は、そんなことを平気で言う朝倉先生が、ふしぎでならなかった。まさか先生が、時代の重圧に負けてやけくそになるわけがない。そうは思うが、やはり何となく不安である。かれはだまって先生の顔を見つめた。すると先生は、その澄《す》んだ眼をぱちぱちさせながら、
「道場やぶりがこわいかね。」
 次郎はめんくらった。同時に闘志《とうし》に似たものがかれの心にうごめいた。
「そんなことないんです。」
 と、かれはおこったように答え、きっと口をむすんだ。
「こわくなけりゃあ、そうむきになって拒絶《きょぜつ》することもないだろう。受けて立つという法もある。もしこういう機会に少しでもこちらの理想を相手の心に植えつけることができれば、むしろ一歩の前進だ。しかし、それにはけちくさい闘志を燃やしてはいけない。ただこちらのふだんの生活のすがたをくずさないようにすれば、それでいいのだ。人間は、結局、一番自然で、一番合理的な生活に心をひかれるものなんだから、君らがそれをくずしさえしなければ、いつかは必ず相手の心に響《ひび》く時があるだろう。それでいいん
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