まりだしぬけであり、また、事がらが事がらだけに、私はもちろん返事ができませんでした。私がその時どんな顔をしたか、今から自分で想像してみましても、まるで見当がつきません。ただ、覚えていることは、父がそれっきり、また眼をつぶってしまい、おおかた十分近くもおたがいに口をききあわなかったことです。それほど私はその一言をきいただけで自分を取り失っていたのでした。沈黙のあとで、父は、今度はしいて笑いを浮《う》かべながら話しだしました。私は今、父がどんな言葉をつかい、どんな順序で話したのか、とても思い出せませんが、私の頭にはっきり残りましたことは、恭一さんは私と結婚《けっこん》することなど夢にも思っていらっしゃらない、それどころか、ご自分と非常にお親しいお友だちで、死ぬほど私のことを思っていてくださる方があるから、私にぜひその方との結婚のことを考えてみるように熱心におすすめくだすった、ということでした。そのお友だちがだれだかは私にはわかりません。父は私にそれを申しませんでしたし、私もたずねて見る気にもならなかったのです。」
 次郎は、それ以上読み進む勇気がしばらくは出なかった。
 かれの気持ちは、非
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