ったし、また、これまでは、自分でも十分な自信をもって、論議を戦わして来ていたのである。そのかれが今度のような大事な場合にかぎって沈黙を守ったということには、何か大きな理由がなければならなかった。
いったい人間というものは、自分とあまり年齢《ねんれい》の差のない人たちの間に、自分の及びもつかないほどすぐれた人物を発見すると、とかく自信を失いがちなものであり、そして、その危険は、これまで自分の持っていた自信の大きさに比例して大きくなるものだが、万一にも、その自信が何か他の事情によって多少でも傷つけられている場合であると、それはほとんど絶対的だとさえ言えるのである。次郎は、少年時代からの苦闘《くとう》によって、自分の人間としての価値にすでにかなりの自信をもっていた。ことに郷里の中学を退き、道江《みちえ》への愛情を断《た》ちきって、友愛塾の生活に専念するようになってからは、心ひそかに自分を朝倉先生の後継者《こうけいしゃ》にさえなぞらえていたのである。だが、かれのそうした自信も、一方では荒田老という怪奇《かいき》な人物の出現によって、他の一方では道江の上京の通知によって、ゆずぶられはじめていた
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