ほどつめたい。
塾堂の玄関《げんかん》は北向きで、事務室はその横になっているので、一日|陽《ひ》がささない。それに窓の近くに高い檜《ひのき》が十本あまりも立ちならんでいて青空の大部分をかくしている。つるつるに磨《みが》きあげられた板張りの床《ゆか》が、うす暗い光線を反射しているのが、寒々として眼《め》にしみるようである。
かれは火鉢に炭をつぎ足そうとしたが、思いとまった。そして、刷りあげた名簿をひとまとめにしてかかえこむと、すぐ中廊下《なかろうか》をへだてた真向かいの室にはいって行った。そこは食堂にもなり、座談会や、そのほかのいろいろの集まりにも使われる畳敷《たたみじ》きの大広間なのである。
事務室からこの室にはいって来ると、まるで温室にでもはいったようなあたたかさだった。午前十時の陽が、磨硝子《すりガラス》をはめた五間ぶっとおしの窓一ぱいに照っており、床《とこ》の間《ま》の「平常心」と書いた無落款《むらっかん》の大きな掛軸《かけじく》が、まぶしいほど明るく浮き出している。
次郎は、かかえて来た刷り物を窓ぎわの畳の上に置いて、硝子戸を一枚あけた。霜《しも》に焼けたつつじの植《う
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