》え込《こ》みが幾重《いくえ》にも波形に重なって、向こうの赤松《あかまつ》の森につづいている。空は青々と澄《す》んでおり、風もない。窓近くの土は、溶《と》けた霜柱でじっくりぬれ、あたたかに光って湯気をたてていた。
次郎はしばらく窓わくに腰《こし》をおろしてそとをながめていたが、やがて陽を背にして畳にあぐらをかき、名簿を綴《と》じはじめた。クリップをかけるだけなので、六七十部ぐらいは大して時間もかからなかった。
名簿を綴じおわると、かれは窓わくによりかかり、じっと眼をとじて考えこんだ。開塾の準備は、これですっかりととのったわけで、天気はいいし、いつもなら、新しい塾生を迎《むか》える喜びで胸が一ぱいになるはずなのだが、今度はどうもそうはいかない。開塾が近づくにつれて、かえって気持ちが落ちつかなくなって来るのである。それは、このごろ、ともすると、かれの眼にうかんで来る二つの顔があったからであった。まるで種類のちがった、そして、おたがいに縁《えん》もゆかりもない二つの顔ではあったが、それが代わる代わる思い出され、全くべつの意味で、かれの気持ちを不安にしていたのである。
その一つは、荒田直
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