に見たことがなかった。かれは、眼をふせて、三人の対話の様子を想像した。荒田老の怪物《かいぶつ》のような顔とならんで、まだ一度も見たことのない小関という人の顔がうかんで来たが、それは血色のわるい、頬《ほお》のこけた胃病|患者《かんじゃ》のような顔で、眼だけがいやに光っていた。その二人と向きあっている田沼先生の顔は、にこにこ笑っているようでもあり、ゆたかな頬を紅潮さして、きっと口を結んでいるようでもあった。
「でも、田沼先生にはちゃんとしたお考えがおありでございましょうし、あたしなんかが、こんなことご心配申しあげるの、かえって失礼でございますわね。ほほほ。」
 と、朝倉夫人はさびしく笑ったあと、次郎のほうを向いて、
「あたしたち、こういう時に、しっかり世の中のことを勉強さしていただきましょうね。いい機会ですわ。」
「ええ。」
 と、次郎はうなずいたが、いかにも心細そうな、元気のないうなずき方だった。
 それから間もなく、朝倉夫人は炊事《すいじ》のほうの用で塾長室を出て行き、あとは三人で夕食になるまで話しこんだ。その話の間に、次郎は、友愛塾に対する軍部の圧迫《あっぱく》が、荒田老や小関氏を通
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