です。それだけのことで、べつに感想はありません。」
塾生たちは、同じページにあらためて眼を走らせはじめた。朝倉先生は眼をつぶって何度もうなずいていた。その中で、次郎だけが、こわいものでものぞくように、遠くから大河の横顔を見ていた。
その時、田沼先生の自動車が玄関をはなれる音がきこえた。つづいて小川先生と朝倉夫人のスリッパの音がきこえたが、それは廊下をつたって塾長室のほうに消えた。次郎はそれを意識しながらも、眼を大河からそらすことができなかった。大河の表情には、ふだんとちっとも変わったところがなかったが、それがかえって次郎の心を強くとらえていたのである。
そのあと、読書会はいつもとあまり変わりなく進められたが、大河のなげかけた問題は、たいして論議の種にならないですんでしまった。大多数の塾生たちの頭では、大河の読みあげた一節と東京の異変とが、すぐには、ぴんと結びついて来なかったらしいのである。朝倉先生も、それを夜の研究会にゆずるつもりか、強《し》いては深入りしようとしなかった。
読書会のあとは軽い室内体操、つづいて音楽。それがすんだのが四時半で、それから五時半の夕食までは自由時間だ
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