非常な成功をおさめ、塾生たちのそれを読む態度もそのために次第《しだい》に真剣味をまして来ていたのであった。
 ところが、今日はかなり様子がちがっていた。いつもだと、朝倉先生が、「では、だれからでも……」と口をきると、先を争うようにして幾人《いくにん》かの塾生が手をあげるのだったが、今日は、それどころか、かんじんの「夜話」をひらきもしないで、ひそひそと私語をつづけているものが多かった。それに、第一、次郎自身の様子がおかしかった。かれは私語こそしなかったが、その眼は廊下《ろうか》の硝子戸《ガラスど》をとおして、食い入るように玄関のほうを見つめていた。玄関では、田沼先生が小川先生と朝倉夫人とを相手に、まだ立ち話をつづけていたのである。
 朝倉先生は、しかし、みんなのそんな様子を見ても、べつに注意をうながすのでもなく、その澄《す》んだ眼に微笑をうかべて、しずかに待っていた。
 すると、大河無門がだしぬけに言った。
「巻の一の第二十八節をぼくに読ませてもらいます。」
 その声は、例の落ち葉をふむような低い声だったが、みんなの私語をぴたりととめた。だれよりもぎくりとしたのは次郎だった。次郎にとって
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