わせたように黙《だま》りこんで耳をすました。先生の電話の声がはっきりきこえるわけではむろんなかったが、そうしないではいられない気持ちだったのである。
間もなく田沼先生は広間の入り口までもどって来て、
「じゃあ、私、いそぎますから、これで失礼します。」
朝倉先生が立とうとすると、
「私にかまわず読書会を始めてください。予定を狂《くる》わしてすみませんでした。」
それから、塾生たちみんなに軽く会釈《えしゃく》したあと、急いで。玄関《げんかん》のほうに去った。
見おくりには、朝倉夫人と小川先生とが立って行き、あとは読書会のいつもの顔ぶれだけになった。
読書会では、テキストのページを追って輪読《りんどく》する場合もあったが、「二宮翁夜話」の取り扱《あつか》いはそうではなかった。あらかじめ、めいめいのひまな時間にその幾節《いくせつ》かを読んでおき、その中から、心にふれたとか、疑義があるとかいうような節をだれからでも発表して、それについて相互《そうご》に意見を述べあうといったやり方であった。このやり方は、実は次郎の提案によるもので、それが「二宮翁夜話」の場合、特に適切であったせいか、毎回
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