りがちで、しかも簡単だったのが、かえってかれらに気味わるい感じを与《あた》えたらしかった。次郎は、かれらが眼を光らせ、耳をそばだてて聞いている沈黙《ちんもく》の底に、すさまじく渦《うず》を巻いている感情の嵐《あらし》を明らかに感ずることができた。
 話がおわったあと、しばらくは部屋中が凍《こお》ったようにしんとしていた。かなりたって、塾生の一人が、だしぬけに、
「先生!」
 と、叫《さけ》んだ。田川大作だった。かれは自分のまえにおいた「二宮翁夜話」をにぎりこぶしで押《お》しつぶすようにしながら言った。
「ぼくたちは、実は、こういうことになりはしないかと、とうから心配していたんです。」
 田沼先生は返事をしないで、じっと、田川の顔を見つめたきりだった。すると田川は、
「ぼくは二年近く満州にいたんですが、あちらから見ていると、日本の政治はだらしがなくて、なっていないんです。」
「そういう見方もあるようだね。」
 田沼先生が、あっさりそうこたえて、眼を朝倉先生のほうにそらしかけると、田川は追っかけるように、
「先生は、どうお考えですか。」
「私も、日本の政治がこのままでいいとは思っていない。
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