いて、ふだんのとおりの生活を、おちついてやって行くんです。」
「おちつくのはいい。しかしこれほどの事件を無視するわけには行かんだろう。われわれが無視しようとしても、いずれどういう形でか新聞にも出るだろうし、塾生たちが問題にしないではおかないよ。その時、君はどうする? にげるかね。」
 次郎は返事ができなくて、顔をあからめた。すると、今度は田沼先生が微笑しながら、
「無視するとはうまく考えたな。いかにも本田君らしい。しかし、それは一種の小細工《こざいく》だ。そういう小細工はやらないほうがいい。やはり塾生を愛することだよ。塾生の良心をね。その愛さえあれは、塾堂はつぶれても、塾はどこかで生きる。塾長、そうでしょう。」
「ええ、そうですとも。」
 朝倉先生が答えた時には、次郎はもう椅子《いす》をはなれて棒立ちになっていた。田沼先生の言った「小細工」という言葉が、鋭《するど》い刺《とげ》のようにかれの胸をつきさしていたのである。かれは何か言おうとしたが、言葉が出なかった。
「そう窮屈《きゅうくつ》にならんほうがいい。」
 と、田沼先生はにこにこ笑いながら、
「窮屈になるから、やることがつい小細工
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