というのではありません。そういうことは、この塾ではいっさいふれたくないし、また、ふれる必要もないと思います。しかし、叛乱軍をはっきり叛乱軍と言いきることだけは遠慮《えんりょ》してはなりますまい。それをあいまいにして、事件の全責任をただちに国民全体が負うというようになりますと、まるで筋が通らなくなります。通すべき筋だけははっきり通して、その上で、負うべき責任を全国民が負う、そういったぐあいに指導していただきたいように思いますが……」
「いや、よくわかりました。むろん同感です。国民の責任といったところで、それは要するに、満州事変以来、おっしゃるような筋を通すことに国民が卑怯《ひきょう》だった点にあるんですからね。」
田沼先生はうなずいて、じっと眼をふせた。そして、しばらく考えていたが、
「しかし、筋を通すには、それだけの覚悟がいりますね。」
と、今度は朝倉夫人のほうに眼をやり、急に、じょうだんめかして、言った。
「奥《おく》さん、五・一五事件の折りは、大変いやな思いをなすったんですが、もう一度ご苦労をおかけするかもしれませんよ。」
「ええ、ええ。それが必要でしたら。」
と、夫人も微笑
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