「国賊《こくぞく》朝日を破壊《はかい》する」と叫《さけ》んで社内に乱入し、印刷局の活字ケースなどをめちゃくちゃにひっくりかえしたそうである。
 叛軍の一部は今朝から赤坂の山王ホテルに宿営している。料亭《りょうてい》幸楽も午前十時ごろ若い将校から多量の酒と弁当の注文をうけたが、ここもあるいはかれらの宿営所として占領されるかもしれない。
 田沼先生は、一通り以上のような状況を話しおわると、言った。
「何より心配だったのは、軍部の巨頭《きょとう》がこれに参加してはいないかということでしたが、それはさすがにないようです。少なくとも、今のところ、直接|指揮《しき》しているとは思えません。その点からいって、さわぎがすぐにも全軍に波及《はきゅう》するようなことは、おそらくないだろうと思います。もっとも、派閥《はばつ》を作るような巨頭連のことですから、今後どう動くか、安心はできません。現に、巨頭連の中には、叛軍の説得に行って、“ご苦労さん、よくやったね”とか、“お前らの心はようくわかっとる”とか言って、かえってご機嫌《きげん》をとったり、はなはだしいのは万歳《ばんざい》をとなえてやったものもあったそう
前へ 次へ
全436ページ中305ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング