都合でした。」
 次郎は、二人がそういって塾長室にはいるのを、自分もあとについてはいりたい気持ちで見おくっていた。すると、すぐ耳のうしろで、いきなり、中食を報ずる板木《ばんぎ》の音が鳴りひびいた。
 食事は、まもなくはじまった。むろん、田沼、朝倉、小川の三先生も、塾長室で話をするいとまもなく、食卓に顔をならべたのだった。塾生たちは、田沼先生が塾に顔を出すのは珍《めずら》しいことではなかったので、雪をおかしてやって来たのを、べつにあやしむふうもなく、ただ親しみをこめた眼《め》で迎えただけだった。三先生の食事中の対話も、いつもとたいして変わりはなかった。すべては平日《へいじつ》どおりだった。
 次郎の気持ちは、しかし、はじめからおわりまで、緊張《きんちょう》そのものだった。かれの眼はたえず田沼先生のほうに注がれ、その一挙一動をも見のがさなかった。先生は、肥満型《ひまんがた》で、血圧が高かったため、酒も煙草《たばこ》もたしなまなかったが、その代わりに、非常な健啖家《けんたんか》で、速度もなみはずれてはやく、それがしばしば食卓の笑い話の種になるほどだった。今日も相変わらずだったが、先生は何杯目
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