眼をこらしたまま、ささやくように言った。夫人も次郎も、言葉の意味をかみしめながら、かすかにうなずいただけだった。
 太陽がすっかりその姿をあらわしたころ、今度は次郎が言った。
「あの櫟林《くぬぎばやし》の冬景色は、たしかにこの塾の一つの象徴《しょうちょう》ですね。ことにこんな朝は。――まる裸《はだか》で、澄んで、あたたかくて――」
「うむ。しかし本館からはこの景色は見られない。惜《お》しいね。」
「すると、この住宅の象徴でしょうか。しかし、それでもいいですね。――先生、どうでしょう。櫟の林にちなんでこの住宅に何とか名をつけたら。」
「ふむ。……空林、空林庵《くうりんあん》はどうだ。つめたくて、すこし陰気《いんき》くさいかな。」
「しかし、空林はすばらしいじゃありませんか。ぼく、すきですね。庵がちょっとじめじめしますけれど。」
「それはまあしかたがない。こんな小さな家には、庵ぐらいがちょうどいいよ。閣《かく》とか荘《そう》とかでは大げさすぎる。はっはっ。」
 すると夫人が、
「いい名前ですわ。すっきりして。あたたかさは、三人の気持ちで出して行きましょうよ。」
 それ以来、この簡素な建物を
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