いて来ましたの。」
「それで、今日は田沼先生がおいでになるそうです。」
「それもうけたまわりましたの。――でも、恭一さん、よく気をきかして早くお知らせくだすったわね。」
「大沢君と二人で、塾のことを心配しているらしいんです。」
朝倉夫人は何度もうなずいたきり、それには返事をしなかったが、しばらくして、
「五・一五事件の時も私たちいやな思いをしましたけれど、今度はそれどころじゃないらしいわね。でも、世間の人たちは、あのころよりか、かえって目を覚まして来ているんじゃないかしら。」
「そうかもしれません。しかし、それだけに、無理な圧迫《あっぱく》もいっそうひどくなるでしょう。」
「そうね。悪い時代って、そんなものね。」
と朝倉夫人は、しばらく何か考えていたが、
「でも、おちつきましょうよ。せめて、あたしたちだけでもおちつかないと、これから育つ人たちに申しわけありませんわ。それにながい目で見ると、世の中は、おちついてあたりまえのことをする人の希望どおりに、きっとなっていくものですわ。あたしそう信じるの。」
次郎は、何か心のなごむような気持ちで、じっと眼をふせていた。心の動揺を感じたあと、
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