か、まるで忘れてしまっているような本気では困るね。」
「そうだ。そういうことが、ぼく、この塾にはいってから、よくわかって来たような気がする。」
「そういうことのわかった青年が、一村に五六名もいると、心強いんだがね。」
「そうだ。ぼくも、このごろしみじみそういうことを考えているよ。それで、ぼくの村からは、このつぎにもぜひだれか入塾させたいと思って、昨日手紙を出してすすめておいたんだ。」
「すいぶん手まわしがいいね。ぼくもさっそく手紙を書くことにしよう。」
 次郎は仕切り戸ごしにそんな話し声をきいていて、泣きたいような喜びを感じた。しかし、その喜びは、かれを一そう憂《ゆう》うつ[#「うつ」に傍点]にする原因でしかなかった。
(これほど塾生たちが期待してくれているこの塾の運命も、遠からず決定するのだ。何という矛盾《むじゅん》だろう。何という大きな損失だろう。)
 かれは、そう考えて、地だんだをふみたい気持ちだったのである。
 まもなく、また講義がはじまり、事務室も廊下も、ひっそりとなった。次郎は、休みの時間に塾長室で、今日の事変のことを朝倉先生から聞かされたにちがいない小川先生が、どんな講義
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