かも、陸軍の派閥争いの一つの犠牲《ぎせい》だよ。裁判がややこしくなるのも無理はない。」
 朝倉先生は、それから、陸軍内部の近年の動きについて、あらましの説明をしてきかせたが、それによると、全陸軍の主脳部が統制派と皇道派《こうどうは》の二派にわかれて、醜《みにく》い勢力争いをやっている、というのであった。
「何より恐《おそ》ろしいのは、両派の巨頭連《きょとうれん》が、自分たちの勢力を張るために、青年将校の意を迎《むか》えることに汲々《きゅうきゅう》として、全軍に下剋上《げこくじょう》の風を作ってしまったことだ。これがほかの社会だと弊害《へいがい》があると言っても程度が知れているが、軍隊の下剋上だけは全く恐ろしいよ。鉄砲《てっぽう》をぶっ放す兵隊を直接|握《にぎ》っているのは下級将校だからね。しかもその下級将校が、単純な頭で、勇ましく鉄砲をぶっ欲しさえすれば国力はいくらでも増進するように考えて、盛《さか》んに政治・外交・経済を論ずる。それに将軍連が心ならずも調子を合わせ、正論を圧迫《あっぱく》してとんでもない国論を作ってしまう。こうなると、まるでめちゃくちゃだよ。今度の事件にしたって、おそ
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