一番うしろの席で講義をきいていた次郎の耳に、何かこっそりささやいた。
次郎は、すぐ立ちあがって、河瀬のあとについて廊下に出たが、
「長距離《ちょうきょり》? どこからだい。」
「東京からです。あなたに出てもらうようにいわれました。」
「田沼先生からかな。」
「そうじゃないようです。若い人の声でした。」
そう言っている間に、次郎はもう、事務室の受話機の前に立っていた。
相手はあんがいにも恭一だった。次郎がどぎまぎしながら、自分の名を告げると、恭一はかなり興奮した調子で言った。
「どうだい。そちらには、まだ何も変わったことはないのか。」
次郎は、いきなりそんなことを言われて、いよいよどぎまぎしたが、
「変わったことって、べつにないよ。……君の葉書は昨日見た。」
「見たか。しかし、あのことは、当分沈黙だ。今は、それどころじゃない。そんなことよりか――」
と興奮する声を強《し》いておさえ、あたりをはばかるように、
「東京は大変なことになったんだぜ。」
「大変なこと? 何があったんだ。」
「真相はまだはっきりしないがね。とにかく宮城《きゅうじょう》のまわりを軍隊がとりまいていて、あの辺
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