。それどころか、かれは恭一に対して一種の敵意に似たものをさえ抱《いだ》きはじめていた。自分はさらしものにはなりたくない。そういった気持ちだったのである。
 かれは、すぐ、机のひきだしから一枚の新しい葉書をとり出して、恭一あての返事を書いた。ペン先にやけに力がこもった。
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「はがき見た。何のことやらわからぬ。沈黙はむろん結構。的なきに矢を放つようなことを君のほうでやりさえしなければ、僕ははじめから沈黙しているのだ。前便再読をのぞむ。これだけいって、いよいよ沈黙しよう。」
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 かれはつめたく微笑《びしょう》しながらペンをおいた。しかし、それと同時にかれの眼をひいたものがあった。それは机の上に開いたままになっていた「歎異抄」だった。
 かれは、しばらく、今書いたばかりの葉書と「歎異抄」とを見くらべていたが、やにわにその葉書をわしづかみにし、もみくちゃにしてにぎりしめ、そして、にぎりしめたこぶしの上に顔を突《つ》っ伏《ぷ》せた。
 こうして、この日も、次郎にとっては、決して昨日より楽な日だったとは言えなかったのである。
 翌二十六日は火曜日だった。
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