」
次郎は胸をどきつかせながら、自分の室にかけこんだ。しかし、そこにかれが見いだしたものは、つめたい畳《たたみ》の上にぴったりとくっついている一枚の葉書にすぎなかった。しかもそれは、ひろいあげて見るまでもなく恭一の手跡《しゅせき》だったのである。文面にはこうあった。
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「重田|父子《おやこ》は、昨日曜夜の夜行で退京した。二人の在京中、一度君にも出て来てもらいたいと思っていたが、ついにその機会が見つからなかった。
君の手紙は、むろん見た。しかし、今はすべてを白紙にかえしたい。適当な機会が来るまで、僕《ぼく》はあのことについては沈黙《ちんもく》する。同時に君にも沈黙してもらいたい。ただし、これは僕ら二人の間だけのことで、他に対しての発言は自由だ。
手紙を書くと、くどくなると思ったので、わざと葉書にした。以上。」
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重田は道江《みちえ》の姓《せい》である。次郎は、読みおわると、つめたい葉書の中にこめられた兄の情熱と意志とを感じた。また、おぼろげながら、その情熱と意志との方向をも察することができた。しかし、それはすこしもかれの心を喜ばせなかった
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