いいますか、群集心理といいますか、まあそういった程度のものでしかありませんし、そんなうすっぺらな意識で、深く生命の自然に根をおろした恋愛を否定したり、軽視したりするのは許しがたいことだと思うのです。」
 大河の声は、しだいに熱気をおびて来て、浴室のすみずみまでひびきわたった。みんなは私語《しご》をやめ、湯の音をたてることさえひかえて、かれのほうに注意を集中した。
「ぼく自身に恋愛の体験がなくて、恋愛を論じては、あるいは見当ちがいになるかもしれませんが、ほんとうの恋愛はどんな時局下でも抑圧《よくあつ》されてはならない。むしろ、時局が緊迫《きんぱく》すればするほど、それを正しく生かしてやるようにしなければならないと思っているんです。ほんとうの恋愛が抑圧されると、男女の関係は堕落《だらく》します。それは恋愛が人目にふれない暗いところに追いやられるからです。そして、そうなると、いっさいが不健全になります。時局のために精神主義の名において恋愛を軽視することが、かえって精神を低下させ、国民道徳の頽廃《たいはい》を招く、というような結果にならないとは限らないと思います。何と言ったって、恋愛は人間社会
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