心にもないことを言いたくなったりするものだ。ほかの場合はとにかくとして、今度の場合だけは、君が子供のように単純率直であることをぼくは心から祈《いの》っている。」
 読み終わった次郎の顔は、いくぶんほてっていた。うれしいような、恥《は》ずかしいような、それでいて憤慨《ふんがい》したいような、変にこんがらかった感情が、かれの胸の中に渦を巻いていたのである。
 かれは赤松の幹によりかかって、手紙をもう一度はじめから読みかえした。それは最初の時よりはるかに時間をかけた、念入りな読みかただった。そして読みおわると、それをかくしにつっこみ、腕組《うでぐ》みをして、しばらくじっと考えこんでいたが、急に何か決心したらしく、大いそぎで自分の居室《きょしつ》に帰って行った。居室に帰ると、すぐ机の上に便箋《びんせん》をひろげた。そして、もう一度考えこんだあと、ペンを走らせた。
「手紙見た。感謝する。しかし、道江の気持ちは、ぼくにはわかりすぎるほどわかっているのだ。君がとろうとする方法は、ただ道江を悲しませるばかりだろう。それは同時に、ぼくにとっても、たえがたい苦痛なのだ。ぼくは、君がぼくに対して注ぐ愛情を道
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