かれあしかれ、道江の心理に相当大きな影響《えいきょう》を及《およ》ぼしているであろうことも、想像できないことではない。――」
 次郎の変な笑いは、いつのまにか、またもとの緊張《きんちょう》に変わっていた。
「しかし、現在までのところ、ぼく自身が直接道江からうけた印象だけで判断すると、その心配もなさそうだ。道江は、これまで、ただの一度も、ぼくに対して、とくべつの意味を持つと察せられるような言葉をかけたことがないし、またそんな態度に出たこともない。手紙はしばしばもらったが、それもたいてい、新刊書の選択《せんたく》の依頼《いらい》のついでに、故郷の消息をつたえるといった程度以上のものではなかった。そのうちの何通かは、ちょうど君が来あわせた時に、君にも見せたのだから、たいてい想像がつくだろう。もっとも、いつごろだったかはっきり記憶《きおく》しないが、かなり以前にもらった手紙の中に、ちょっと変わったことが書いてあったのを今でも思い出す。それは君自身に関係したことだった。女学校時代に、いつも君に低能あつかいにされていたので、今度君にあうときには、すこしは君の話相手になるように勉強しておきたい、とい
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