来たのは、つい半年ばかり前からのことだが、それでも、その中に道江の気持ちが反映しているとは思えない。というのは、そのことについての父さんからの最初の手紙に、若い女の心をきずつけてはならないから、お前の肚《はら》がきまらないかぎり、道江本人には絶対秘密にするように、双方で固く申合わせてある、と書いてあったからだ。おそらく現在でもこの秘密は守られていることだと思う。要するに、道江のぼくに対する気持ちということと、ぼくに婚約の話が持ちかけられたということとは、最初から全然無関係のことだし、今でもやはり無関係だとぼくは信じている。この点をまず君に了解《りょうかい》してもらいたいと思う。――」
次郎は、ふんと鼻を鳴らし、冷笑とも苦笑ともつかぬ変な笑いを口元にうかべた。しかし、その目は、むさぼるように先を読みすすんでいた。
「もっとも、こういうことは、いくら秘密にしても、周囲の空気で何とはなしにわかることもあるし、何かのはずみで、話の片鱗《へんりん》ぐらいは耳にはいらないものでもない。だから、道江がまるでこのことに感づいていないとは断言できないだろう。そして、もし感づいているとすれば、それが、よ
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