切ってもらいたい、という意味のことを書き、朝倉先生に対しては、ごく簡単に、当分結婚のことは考えたくない、という返事を出しておいたのだ。もっとも、ぼくはこの二つの手紙を書きながら、道江自身の気持ちをおしはかってみないのではなかった。そして、もし万一にも、道江自身がぼくとの結婚を希望し、それがこの話の糸口になっているとすれば――と、そう考えると、道江がいじらしくてならないような気もしたのだ。しかし、これは、同じような立場に立たされた女性に対してだれでもが感じうる人間的感情を、ぼくがいくぶん強く感じたというまでのことで、断じて恋愛《れんあい》というべき性質のものではない。君はこの点についてもぼくを信じていいのだ。――」
次郎は信ずるよりほかなかったし、また、信じたくもあった。しかし、それを信ずるということは、この場合、かれにとって何の慰《なぐさ》めにもなることではなかった。
(道江は恭一を愛している、それはちょうど自分が道江を愛しているように。)
このことは、道江の今度の上京の意味を考えてみるまでもなく、かれにとっては、あまりにも明瞭《めいりょう》なことだったのである。
恭一の手紙は、
前へ
次へ
全436ページ中241ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング