えるのだった。
 かれは、ふと、何と思ったか、このごろしばらく手にしなかった「歎異抄《たんにしょう》」を本立からひき出して机の上にひらいた。しかし、かれの眼は、その中にしるされた文字に深くはいっていくようではなかった。かれは何度か髪《かみ》の毛をむしり、ため息をついたあと、ばたりと「歎異抄」をとじ、その上に顔をふせてしまったのである。

   八 手紙

 それから四日目の、昼食後の休み時間のことであった。次郎が、葉の落ちつくしたくぬぎ林の、日あたりのいい草っ原で、四五人の塾生《じゅくせい》たちを相手に雑談をしていると、郵便物当番の塾生がやって来て、かれに一通の分厚な封書《ふうしょ》を渡《わた》した。見ると恭一《きょういち》からの手紙である。
 同じ東京に住むようになってからは、しばしば顔を合わす機会も得られたので、これまで、恭一との間の通信は、おたがいに葉書ぐらいですませており、長い手紙など、一度もやりとりしたことがなかったし、それに、先日|道江《みちえ》といっしょにたずねて来てもらった時のいきさつもあったので、次郎はその分厚な封書を受け取ると、心にかなりの動揺《どうよう》を感じ、も
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