の豊頬《ほうきょう》とに、まず心をひきつけられ、さらに、透徹《とうてつ》した理知と燃えるような情熱とによって語られるその言々句々《げんげんくく》に、完全に魅《み》せられてしまったのであった。
「錦《にしき》を着て郷土に帰るというのが、古い時代の青年の理想でありました。もしそれで、郷土そのものもまた錦のように美しくなるとするならば、それもたしかに一つの価値ある理想といえるでありましょう。しかし事実は必ずしもそうではなかったのであります。錦を着て郷土に帰る者が幾人《いくにん》ありましても、郷土は依然《いぜん》としてぼろを着たままであり、時としては、そうした人々を育てるために、郷土はいっそうみじめなぼろを着なければならない、というような事情さえあったのであります。今後の日本が切に求めているのは、断じてそうした立身《りっしん》出世主義者ではありません。じっくりと足を郷土に落ちつけ、郷土そのものを錦にしたいという念願に燃え、それに一生をささげて悔《く》いない青年、そうした青年が輩出《はいしゅつ》してこそ、日本の国士がすみずみまで若返り、民族の将来が真に輝《かがや》かしい生命の力にあふれるのであり
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