やソクラテスは凡俗《ぼんぞく》の上に立って凡俗を教えた人たちではありましたが、凡俗といっしょに暮《く》らした人たちではなかったと思います。その意味で、ぼくの今の気持ちには、何かぴったりしないところがあるんです。ぼくは、今のところ、教える人になりたいとは、ちっとも考えていません。自分も凡俗の一人として、凡俗といっしょに暮らしてみたい。おたがいに凡俗のまごころをつくして暮らしてみたい。ただそう思うだけなんです。これは、あるいはまちがっているかもしれません。しかし、現在のぼくは、それよりほかに、気持ちよく生きて行く道がないような気がしているんです。」
 この言葉には、次郎だけでなく、みんなも強い刺激《しげき》をうけたらしかった。ことに、朝倉先生は、その言葉をきくと、何かにおどろいたように目を見張り、しばらくして、うむ、うむ、と何度もうなずいたり、ながいため息をもらしたりしたほどであった。
 恭一と道江とが帰ったのは、四時近いころだった。次郎は門のそとまで二人を見おくって出たが、わかれぎわになって、ふと思い出したように恭一に言った。
「ぼく、今度の期間を終わったら、ひょっとすると、ここの助手を
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