先生にあてた手紙に道江のことを書いたとすれば、それは恭一との婚約《こんやく》に関係したことにちがいない。それ以外のことで、道江のことなんか書く必要はすこしもないはずなのだから、と思った。
「うちで、白鳥会の連中が先生の送別会をやった時には、道江さんもいたんじゃなかったかな。」
 恭一が道江にたずねた。
「あの日は、あたし、お台所でお手伝いをしていましたの。」
「お給仕には出なかった?」
「ええ、おばさんに出るように言われたんですけれど、あたし、とうとうしりごみしちゃって。……でも、あの時は、男の学生ばかり、三十人もならんでいらしったんですもの。」
「すると、先生がたのお顔も今日がはじめてなんだな。」
「そりゃあ、お顔だけは存じていましたわ。あのとき拝見したんですもの。」
「のぞき見したの? どこから?」
「はしご段のところからですわ。ほほほ。」
 みんなが笑った。次郎も笑ったが、苦しそうだった。何でもない会話ではあったが、そうした対話が、自分を中にはさんで、二人の間にすらすらと取りかわされるのをきいていると、次郎は平気ではいられなかったのである。
 そのあと、話は、そのころの思い出で、
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