した。」
 河瀬はにやにや笑っている。次郎は、自分がどんなおろかな問答をくりかえしているかには、まるで気がついていないらしく、
「今すぐ行くよ。」
 と、ぶっきらぼうに言って、窓をぴしゃりとしめた。
 かれは、しかし、容易に立ちあがろうとはしなかった。そして、机の上にあったはがきに、かなりながいこと眼をこらしていたが、いきなりそれをとりあげると、両手でもみくちゃにし、屑《くず》かごの中に投げこんだ。そのあと、やっと思いきったように、立ちあがるには立ちあがったが、それでもすぐには室を出ようとせず、うつろな眼を戸口に注《そそ》いだまま、立ちすくんでいた。
 かれが空林庵の玄関《げんかん》をはいったのは、それからおおかた、十分ほどもたったあとのことだったのである。
 先生の書斎《しょさい》からは、にぎやかな話し声がきこえていた。かれは、しいて自分をおちつけながら、玄関をあがり、書斎のふすまをあけたが、その瞬間《しゅんかん》、みんなの顔がピントのあわない写真のようにかれの眼にうつった。
「何かお仕事でしたの?」
 朝倉夫人がたずねた。
「ええ、……ちょっと。」
 次郎は、突っ立ったまま、どもる
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