とができたことを思いますと、一方では、かえってありがたいような気持ちもしています。」
みんなの視線は、もうさっきから大河に集中されていた。大河の顔には、しかし、それでてれているような表情はすこしも見られなかった。かれはただ一心に次郎の顔を見つめ、その声に耳をかたむけているだけであった。
そのあと、八時から正午まで、「郷土社会と青年生活」という題目で、朝倉先生の講義があり、午後は屋外|清掃《せいそう》と身体検査、夜は読書会や室内|遊戯《ゆうぎ》などで、開塾第一日の行事が終わった。
消燈まで、これといってとりたてていうほどの変わったこともなかった。しかし、大河無門が、かれ自身の希望に反して、あまりにも早くその存在を認められ、みんなの注目の的になったということは、この塾にとって、よかれあしかれ、決して小さなできごとではなかったといえるであろう。
朝倉夫人は、行事をおわって空林庵に引きあげるまえに、わざわざ次郎の室にやって来て、しばらく話しこんだ。その話の中にこんな言葉もあった。
「次郎さんの板木の打ちかたには、行事の性質や、そのときどきの必要で、少しずつちがった調子が出ますわね。あた
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