*
朝倉先生は、この話を語りおわると、しばらく沈黙した。
塾生たちは、かるくとじたまぶたをとおして、窓のすりガラスに刻々に明るくなって行く朝の光を感じながら、つぎの言葉を待った。軒端《のきば》には、雀がちゅんちゅんと、間をおいて鳴きかわしている。
やがて先生は言葉をついだ。
「私はけさ、君らの中のだれかが打った板木の音を聞きながら、ふと、この話を思い出したが、それはおそらく、けさの板木が、ここの生活にふさわしい心をもって打たれていたからだと思う。君らの耳にあの音がどう響《ひび》いたかは知らない。しかし、私は、あの音から、この塾はじまって以来のゆたかな感じをうけたのだ。じっくりと落ちついて、すこしも軽はずみなところのない、また、すこしも力《りき》んだところのない、おだやかな、そして辛抱《しんぼう》づよい努力、――心の底に深い愛情をたたえた人だけに期待しうるような努力を、私はあの音から感じとり、これこそここの生活を象徴《しょうちょう》する響きだと思ったのである。――私は、しかし、奕堂和尚のように、だれが、どんな気持ちで、今朝の板木を打ったかを、しいて知りたいとは思わない
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