な。」
「べつにこれと申す心得もございません。ただ定めに従いましてつきましただけで……」
と、小僧はあくまでもつつましくこたえた。
「いや、そうではあるまい。世の常の心では、ああはつけるものではない。わしの耳には、そのまま仏界《ぶつかい》の妙音《みょうおん》ともきこえたのじゃ。鐘をつくなら、あのようにつきたいものじゃのう。何も遠慮《えんりょ》することはない。みんなの心得にもなることじゃ。かくさず、そなたの気持ちをきかせてはくれまいか。」
「おそれ入ります。では申しあげますが、実は国もとにおりましたころ、いつも師匠《ししょう》に、鐘をつくなら、鐘を仏と心得て、それにふさわしい心のつつしみを忘れてはならぬ、と言い聞かされておりましたので、今朝もそれを思い出し、ひとつきごとに、礼拝《らいはい》をしながらついたまででございます。」
奕堂和尚は聞きおわって、いかにもうれしそうにうなずいた。そして、まだどこかに漂《ただよ》っていそうな鐘の音を追い求めるように、ふたたびしずかに眼をとじた。
この妙音をつきだした小僧こそは、実に、後年の森田|悟由《ごゆう》禅師《ぜんじ》だったそうである。
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