した。そして、そのまま、すぐそこを去り、塾長室のほうに行った。
 塾長室の掃除は、朝倉先生夫妻が、空林庵の掃除をすましたあと、給仕の河瀬《かわせ》に手つだってもらって、自分たちの手でやることになっていたが、次郎も、都合がつきさえすれば、手つだうことにしていたのである。
 中にはいって見ると、もう掃除はすっかりすんでおり、河瀬がストーヴに火を入れているところだった。夫人は炊事場《すいじば》のほうにでも行ったらしく、朝倉先生だけが、まだあたたまらないストーヴのそばの椅子にかけて、手帳に何か書き入れていた。
「どんなふうだね。」
 先生は、次郎の顔を見ると、手帳をひらいたまま、たずねた。
「はあ――」
 と、次郎は笑いながら、
「例によって、指導者がいるようですね。」
「飯島なんかも、そうだろう。」
「ええ、とくべつ露骨《ろこつ》なようです。」
「田川はどうだい。」
「ちょっとその気があるようですが、軍隊式ですから、飯島とは質がちがいます。気持ちはあんがい純真じゃないかと思いますが……」
「そうかもしれないね。……それで、べつにこれまでと大して変わったこともなかったんだね。」
「ええ――」

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