けようとした。しかし、なぜか思いとまった。そして、入り口の横の板壁《いたかべ》にかけてあった便所用の雑巾を一枚とり、それをたたきの上のバケツの水にひたして、しぼったあと、大河のはいっているのとは反対のはじの大便所の戸をあけ、中にはいった。
飯島は、それまで、やはり入り口の階段に立って、何かと指図《さしず》がましい口をきいていた。しかし、次郎が雑巾をもって大便所の中にはいったのを見ると、さすがに気がひけたらしく、指図する言葉のはしばしがにぶりがちになり、何かしら気弱さを示していた。
「こんな寒い時には、ぐいぐいはたらくに限るよ。室長なんかになるもんじゃないね。」
じょうだんめかして、そんなこともいった。ゆうべ各室で就寝前に行なわれた互選《ごせん》の結果、かれは第五室の室長になっていたのである。
次郎は吹《ふ》きだしたい気持ちだった。同時に、心の中で思った。
(飯島のような人間はとうてい救えない。それにくらべると、田川大作のほうはまだ見込《みこ》みがある。)
かれは、窓ガラス、窓わく、板壁、ふみ板と、上から下へ、つぎつぎに拭《ふ》きあげて行きながら、おりおりそとをのぞいて飯島の様子
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